腰痛とは何??
【腰痛】とは病名ではなく,『腰が痛い状態』を指します.
腰痛を引き起こす疾患は沢山あるので,「○○したら絶対良くなる!」という事はあり得ません.
腰痛,本当の腰の痛みの原因は,あまり深く考えられていないのが実情かと思います.
一度このコラムを読んで,巷で言われていることが正しいかどうかの判断材料にしてみてください.
排他的で扇動的な情報操作というのはどこにでもありますが,腰痛に関しても沢山あります.一度ゆっくり腰痛について考えてみましょう.腰痛に悩まされる一般の方も腰痛に対して治療にあたる方にも読めるような内容で解説していきます.
現状理学療法士や柔道整復師,鍼灸師でも【腰痛】に対する知識が充分ではないですね.
治療を考える上で重要なのは,治療方法ではなく病態です.病態が分かれば治療方法は自ずと導き出されます.
以上の理由から,腰痛に対する考え方や治療方法も一定ではありません.
- バキバキッと鳴らす
- 筋膜リリース
- モビライゼーション
- トリガーポイント
などの徒手療法を行う人の多くも,『痛みの病態』 についてあまり考えず,治療方法だけを考えようとします.だから,骨格の歪み・骨盤のずれというあいまいな言葉で説明しようとします.
骨格の歪みや骨盤のズレを手術ではなく手で治療するのは不可能と考えられる理由の一つとして,陸上短距離100mの世界記録保持者のウサイン・ボルト選手を例にします.
この選手は1歩が左右で20cm以上違うくらい骨格に歪みがあります.ボルト選手には7人もの身体の専門家が付いていました.しかし,その骨格の歪みは治っていません.世界一の選手に付いている専門家ですから知識や技術は確かでしょう.それでも歪みは治らないなら,地域の整体でも骨格や骨盤のゆがみは治せないはずです.
この他にも骨格や骨盤の歪みが治せない理由を ☞骨盤矯正でこんな効果・?整体・カイロの‘不都合な真実’ で説明していますので参考にしてください.骨盤矯正などについての考えが少し変わるかも知れません.
腰痛になる病気や他の理由
腰痛を引き起こす原因は様々です.
骨折など骨による痛み,神経の圧迫など神経因性の痛み,椎間板自身の痛み,その他,関節や筋肉が痛くなる事もありますし,心因性といって精神状態によっても腰痛になる事が分かっています.
骨による腰痛
『骨の痛み』と言っても,【圧迫骨折】などの一時的な外傷によるものや繰り返す小さなストレスが引き起こす【脊椎分離症】のようなものや,骨が脆弱になって痛みが発生する事もあります.
神経による腰痛
『神経の痛み』は圧迫やストレッチされるストレスで痛みますし,液性因子など身体の中で起こる化学的な刺激でも起こります.【椎間板ヘルニア】はその最たるものですし,【脊柱管狭窄症】もこの神経を圧迫する事で起こる症状が主だったものです.
その圧迫は骨性で脊柱管内で起こるのか,椎間孔で起こるのか,椎間板によるのか,筋肉によるのかなど色々な場所で起こり得ます.
椎間板による腰痛
『椎間板の痛み』も考えます.椎間板はゼリー状の【髄核】とそれを取り囲む【線維輪】で構成されます.本来椎間板はこの【線維輪】の外側しか痛みを感じない神経の構造になっていますが,加齢や普段の姿勢や運動習慣によって”変性”が起こると,神経が椎間板内部に侵入していくので,椎間板全体のストレスによって痛みが起こるようになります.
健康な椎間板であれば,線維輪が保たれるような圧迫や捻じれのストレスでは痛みを感じませんが,変性した椎間板では線維輪が破れないような小さなストレスでも痛みを感じるようになります.
その他様々な因子による痛みとそれぞれの原因があります.
「○○で腰痛が良くなる」という謳い文句に対する違和感
上の事実だけでも沢山の【腰痛】の理由がありますので,「コレをしたら~」で【腰痛】すべてが良くなるという事はまず考えられないという事が分かります.
それでも多くの人がその謳い文句に惑わされるのは,【腰痛】を抱えている人が沢山で,症状がなかなか良くならない事で情報が氾濫しているからかもしれません.
腰痛の深淵を覗く
深淵を覗くと言っても,腰痛は本当に奥が深くその全てを理解するのは私には難しいです.
しかし,『難しい』と考えるからこそ,【腰痛】について深く知りたいと思いました.
【腰痛】を引き起こす組織について考察します.
『組織』とはここでは”身体を構成する一定の単位”です.例えば,骨,筋,神経などですね.
ここでの私見は Kuslich SD. et The Tissue Origin of Low Back Pain and Sciatica . Clinilca of North America 22.181-187,1991. という論文の影響を多分に受けています.このコラムの一番下に要約を載せますのでそちらも参考にしてください.
身体は刺激を与えると全て痛みを感じるという訳ではありません.
例としてよく分かってもらえるのは,『腸』です.実は腸はメスなどの鋭利な刃物で切っても痛みは感じません.ですが,組織をストレッチするような伸張刺激では痛みが発生します.
これは腰痛と関係するであろう組織でも同様で,論文の要約に詳しく書いてありますが,骨に強い刺激を与えても腰痛は再現されにくい事が報告されています.すべての部分ではありませんが,筋肉も同じように強く押さえてもほとんどの部分は痛みません.神経も健康的な状態であれば刺激に対してそこまで痛みに対して過敏ではありません.
ただし,『神経』と『筋肉』はある一定の条件下で痛みが生じやすくなります.
この一定の条件が【腰痛】の原因として割合が大きいと捉えています.
【腰痛】への対処は?
一番大事なのは原因究明です.
これには様々な方法がありますが,一番身体の中身まで厳密に検査出来るのは,やはり『病院』です.
脊椎を専門にしている先生にしっかり観てもらう事が大事です.
圧迫骨折や分離症などはレントゲンを撮らなければ分かりません.『椎間板』や『椎体終板』と言う組織で言うとMRI,それも一定の条件下でのMRI画像でしか判断出来ない事もあります.
骨折の他にも見落としてはならない【病気】が隠れている可能性もあるのでそのためにも病院受診は大事です.
ただし,病院では状態によって治療が薬や湿布で終わってしまう事もあります.ここから理学療法士や鍼灸師の出番です.
病院での検査でも痛みの原因としては見落とす可能性もあります.骨折ですら見落とされる可能性はあります.
他にもわずかな神経の変性による痛みの場合,MRIでも判断出来ませんし電気診断学でも捉えられない事があります.
このような痛みに対して,組織の『生理』や『病態』を考える事で初めて【腰痛】への対処が出来ると考えています.
『ぎっくり腰』などの急性の腰痛であれば,ある程度の安静は必要です.(過度の安静は不利益になると考えられています)
どうしても動かなくてはならない場合の処置は出来ますが,ある程度の危険性はあります.(圧迫骨折の場合,固定が弱いと不可逆性の骨の変形になる事もある)
ではそのような危険性が無いと判断された場合に多いのが,上でも少し述べたように『神経による痛み』です.
この対処方法が当院では得意ですので,もし自身も該当すると考えられる人はご相談ください.
神経による痛みと考えられる理由と方法はこちらでまとめてあります.☞神経リリース 〜新しい身体へのアプローチ〜肩こり・腰痛などに
生理学や病態としてとらえた時に【腰痛】への考え方が変わるので,腰痛へ対処する側の方にも読んで頂くとスキルアップ出来ます.
腰痛に対する考え方が変わる論文
ここからは,腰痛を考える上でよく参考にしている文献の一つです.一つ一つの組織を同定しながらの研究方法であり,根本を考えるには重要な情報です.
注目すべき点は沢山ありますが,
- 筋・筋膜や関節包を刺激してもあまり疼痛は発生しないという事
- 筋膜組織が破たんしている症例もあるという事
- 筋・筋膜を刺激して痛みがある場所は一定の共通点がある ⇐とても大事な情報です.ぜひ実際末尾の論文内容を読んで下さい
腰痛は『非特異的が多い』と言われて久しいですが,そのあとにフォーカスされた【筋・筋膜性腰痛】が多いとする意見と異なります.
もちろん筋による疼痛はあると言われます.これは虚血(血流が減少している状態)で筋収縮すると疼痛を生じるためです.
しかし,単純に筋や筋膜が引き起こしている腰痛で,筋膜リリースなどというものをすると痛みが治まるというのは他の作用がありそうです.
以下は,
Kuslich SD. et The Tissue Origin of Low Back Pain and Sciatica (腰痛及び坐骨神経痛の原因組織)
Clinilca of North America 22.181-187,1991.
という論文の要約になります.
治療者は是非原文も参考にしてください.
はじめに
過去10年,700例を越える局所麻酔下における腰椎の手術を行い,腰部及び下肢に疼痛を及ぼす組織をいくつか特定した.
坐骨神経痛を及ぼす組織は,腫脹・伸張・圧迫のある神経根である.
腰痛はいくつかの腰部組織を刺激することにより発生するが,もっとも多いものは線維輪外層と後縦靭帯で,
臀部痛は線維輪及び神経根の刺激によって発生する.
椎間関節包に刺激を与えても腰痛が発生する事はまれである.
椎間関節滑膜及び関節面軟骨では疼痛は発生しない.
どの組織が腰痛・坐骨神経痛を惹起させるのか?
この問いについて専門化の意見は様々である.
この問題は,未だ真に学術的とは言えない.
どの組織が疼痛を惹起させるかが明確になれば,治療方法はより確率されるであろう
.
数多くの文献がありその趣旨も様々であるが,ほとんどは量的に不十分な基礎的研究より結論付けている.
そういった専攻論文から考えられる腰痛や下肢痛の原因についての論争は,固有受容期の存在か,適切な侵害受容性神経終末の有無の知覚に由来した疼痛惹起であることにより起こる.
これを指摘するに当たりイギリスの神経学者であるWykeは,椎間板には腰痛を惹起させる神経終末がないため腰痛の原因とは考えにくいと結論付けている.
それでは,筋組織についてはどうであろう?多数の研究者が弱化した若しくは傷害のある筋は腰痛を引き起こすとしている.
この仮説が合っているなら,弱化していない患者も腰痛がある事,他部位における過労性及び傷害された筋による疼痛より,腰痛が長期にわたり継続する事は説明できない.
数例のコンパートメント症候群については,顕微鏡レベルでの萎縮性の変化を認めているが,腰部手術においては断裂や血腫については確認されていない.
多数の研究は容易には廃用と関連付けられない筋病理のわずかな発見であった.
腰痛の研究対象
1987年~1990年において来院した193人の患者が対象である.
ヘルニア及び狭窄症の全例において除圧術を施行した.
刺激は外科的道具か低電圧通電によって行い,明瞭さ・安全面より鏡視下にて操作した.
神経根の除圧術については先行のものと同様に行った.
表1は今回行った組織である.被験者は完全に意識下か,若しくはわずかに意識レベルを低下させて行った.
各組織を刺激し疼痛が発生しているかを確認し,麻酔医が反応をチェックした.
腰痛の原因~研究結果
下の表にそれぞれ,個体数とパーセンテージを示した.
全例の総和が193人ではないのは,全ての被験者に全ての組織を刺激出来なかったからである.
例えば,健常神経根を確認できる視野を確保出来なかった例である.
疼痛強度をアナログスケールを用いて0~5にて評価した.
(強い疼痛とは,強度の高い,若しくは術前と同様の疼痛)
これらの操作は,優しく丁寧に行った.
疼痛を生じさせたのはわずかの間で,刺激を除去するか,
キシロカイン(麻酔薬)を投与する事で疼痛を消失させた.
*色付けしている行が痛みが出た症例が多い組織.
*中でも50%以上の症例で疼痛が出るのは
- 皮膚
- 伸長刺激,圧迫刺激を受けている神経根
- 椎間板線維輪
- 椎体終板
下表は疼痛を生じる頻度
tissue |
No.tested |
No. and % some pain |
significant pain (%) |
anatomic site of pain |
lumbar fascia |
193 |
32(17%) |
0.5 |
back |
paravertebral muscle |
193 |
80(41%) |
0 |
back |
supraspinous ligament |
193 |
49(25%) |
0 |
back |
spinous process |
193 |
21(11%) |
0 |
back |
interspinous ligament |
157 |
10(6%) |
0.5 |
back |
lamina |
193 |
2(1%) |
0 |
back |
facet capsule |
192 |
57(30%) |
2.5 |
back, Buttock(rare) |
facet synovium |
186 |
0 |
0 |
|
ligamentum flavum |
167 |
0 |
0 |
|
epidural fat |
193 |
1(0.5%) |
0 |
back |
psoterior dura |
92 |
21(23%) |
6 |
buttock, leg |
anterior dura |
64 |
15(23%) |
5 |
back, Buttock(rare) |
compressed nerve root |
167 |
166(99%) |
90 |
buttock, leg, foot |
normal nerve root |
55 |
6(11%) |
9 |
buttock, leg |
central annulus |
183 |
135(74%) |
15 |
back |
central lateral annulus |
144 |
102(71%) |
30 |
back |
nucleus |
176 |
0 |
0 |
|
vertebral end plate |
109 |
67(61%) |
9 |
back |
always |
often |
rare |
never |
skin |
outer annulus fibrous |
supra/interspinous ligament |
ligamentum flavum |
compressed nerve |
vertebral end plate |
facet capsule |
lumbar fascia |
|
tissues in anterior epidura space |
muscle attachment at boune or neurovascular bundle |
lamina bone |
|
|
|
spinous process bone |
|
|
|
facet synovium |
|
|
|
umcompressed nerve root |
|
|
|
uninflamed dura |
|
|
|
facet cartilage |
腰痛・坐骨神経痛と各組織に対する刺激の影響
- 腰筋膜
腰筋膜とは傍脊柱筋の表層にある,光っている,白く,軽度の張りのある線維組織を含む.
多数の筋膜は操作なしに癒着若しくは切断されていた.
棘突起に付着する中央の組織を刺激すると,時折疼痛惹起が認められた.
これは棘上靭帯とも呼ばれる.
しかし疼痛を生じることはあまりなかった.
但し,血管や神経の孔部を牽引したり焼灼したりすると限局的に鋭い不快感を生じた.
*筋膜は元々癒着や切断されている状態もあり,筋膜を操作することで痛みが軽減する理由にはならないようです.
但し,血管や神経の通り道を圧迫すると痛みを生じるため,ツボなどの個所と一致するのかもしれません.
- 筋
少々の圧迫なら疼痛を生じる事はない.
血管や神経若しくは,腱部を強く伸張させると腰痛を生じた.
これは強い圧迫と伸張によって生じている.
その疼痛は鋭く,深部を刺激されているような感覚であり,腰痛のような鈍い痛みでもある.
筋の病理的変化から疼痛を関連付ける事は出来ず,疼痛は筋束によるものではなく抹消血管や神経によるものと考えられた.
*筋の圧迫も直接痛みを生じるわけではないという解説
筋・筋膜性腰痛を見直す必要があると思います.
- 正常神経根
健常な圧迫も伸張もない神経根は,疼痛を感受しにくかった.しばらく強く伸張させてもわずかな異感覚を生じるのみで強い疼痛は生じなかった.
- 圧迫神経根
圧迫若しくは伸張にさらされている神経根を刺激すると,手術前にあった坐骨神経痛様の症状が再現された.
下肢痛をもたらす組織のなかで,坐骨神経痛をもたらす組織は,圧迫・伸張・腫脹のある神経根だけであった.
坐骨神経痛は,圧迫を受けている尾側硬膜,神経根鞘,神経節,神経節までの遠位神経の圧迫及び伸張刺激にても再現された.
神経節は他よりも疼痛は軽度であったが,その差はたいした物ではなかった.
全般的に,圧迫及び伸張を受けている神経の近位を刺激すると疼痛強度は大きかった.
この疼痛は,1%キシロカイン,0.5ccを神経鞘の近位に注入する事で消失した.
興味深いことは,ラミネクトミーを受けている患者は神経周囲の線維化が認められたが,瘢痕組織は疼痛を生じなかった.
しかし,神経根は通常過敏であり,神経痛を生じている場合の瘢痕組織の存在は,一箇所に神経を固定しそれ故に神経根の圧迫・伸張が生じると考えられる.
*圧迫,伸長刺激のない正常な神経根は痛みません.但し刺激にさらされている神経根は必ずといっていいほど疼痛が生じます.
麻酔で痛みが消失するためブロック注射も的確に打つことができれば痛みは無くなります.
神経の圧迫・伸長刺激をどのように取り除いてあげるかが腰から下肢痛の治療のカギとなるようです.
- 線維輪
約2/3の被験者において疼痛が認められた.
その痛みは腰痛を惹起し,元々の腰痛と似ていた.
それは居所麻酔にて消失された.
臀痛を引き起こすことはあまりなく,神経根と線維輪外層を同時に圧迫すると臀痛を生じることがあった.
また,外側ヘルニアを椎孔へ刺激すると臀痛を生じた.
総じて加療が必要なほどの重大な臀痛を生じることは非常に稀であった.
線維輪はヘルニアや狭窄症の手術を行う被験者の内,1/3に激痛を生じ,1/3に軽い疼痛,残り1/3は疼痛を生じなかった.
おそらく被験者には,神経過敏を生じている可能性はある.
若しくは椎間板がより疼痛を感じるような,化学的,機械的ストレスがあったと推測される.
他の研究では,被験者のなかには椎間板隆起があっても無症候性のものがあるとしている.
線維輪への刺激による関連痛は存在する.中心線維輪や後縦靭帯への刺激は腰中心部痛を生じる.
後縦靭帯の左右を刺激すると腰部外側痛を生じる.
これについては,椎間板隆起が外側へ生じたときの一側に生じる疼痛を説明している.
*椎間板の外側線維輪にはもともと痛みを感じる受容器はありますが,内側には受容器がないため椎間板性の疼痛は本来あまりありません.
しかし,椎間板の変性が進むと痛みを感じる神経が内側へ入り込んでくるため痛みを感じるようになります.
20歳ころから椎間板の変性は進むため,椎間板線維輪由来の疼痛は年齢とともに変化すると言えます.
- 後縦靭帯
後縦靭帯と線維輪中央部とは交通がある.それは高頻度にて腰中心部に疼痛を生じる.線維輪に近接している事もあり疼痛原因は断定できなかった.総じて,線維輪後方にて疼痛惹起があった場合,後縦靭帯も過敏になっていた.
- 椎体終板
終板を圧迫若しくは掻爬すると深部に強い疼痛を生じた.これは,手術以前の違和感より強く鋭いものであった.
*椎体終板は腰痛の原因となるようです.
椎体終板の障害はMRIでも判断しづらい場合が多く,非特異的腰痛として考えられてしまうこともあるのではないでしょうか.
- 椎間関節
傍脊柱筋をよけた上,針などによる刺激に対し椎間関節包周囲組織は時折過敏である.
しかし,疼痛は鋭く局所に発生し,術前にあった腰痛とは違いがあった
.関節包は時折疼痛を発生し,その箇所は腰背部であり,稀に臀部もあるが下肢には出なかった.
それは,関節包周囲に対する数mlの局所麻酔によって消失した.
それは必ず関節内に注入しなくても可能であった.
関節滑膜や軟骨は疼痛を生じなかった.
椎間関節について興味深い事は,脊柱管が三つ葉を形取り外側憩室が狭くなっている場合,上関節突起関節面と関節包は,椎間板の後面と連絡を持っている例が多かった.
この部分を圧迫刺激する事で,腰痛再現をさせる事が多数の例で出来た.
これが,患者に対し腰痛を引き起こすのか,臨床家はこれをファセットシンドロームとして扱うのか.
これは腰痛を引き起こす可能性のひとつであり,椎間関注の効果の機序であると考える.
その他
黄色靭帯,硬膜外脂肪体,硬膜後部,髄核,椎弓,棘突起は局部刺激に対して反応しにくい.
棘間靭帯を強く伸張すると局所的な腰中央の疼痛を生じる.
骨膜層に対する刺激では疼痛は惹起されず,棘突起,椎弓,関節骨は局所麻酔無しにかんしにて除去することができた.
骨髄への静水圧上昇における疼痛に関しては調査出来なかった.
結語
居所麻酔下における操作にて,臨床で見られる疼痛症候群を引き起こす組織を特定する機会があった.
脊柱の操作は,生体における疼痛を生じる組織の特定に有用である.
- 坐骨神経痛は炎症・伸張・圧迫を受けている神経根に対し,圧迫若しくは伸張刺激を加えたときのみ生じる.
- 他の組織は下肢痛を引き起こすことはなかった.
近位神経部におけるキシロカイン注入にて完全に神経痛を除去することが出来た.
- 線維輪外層は最も高頻度に腰痛を引き起こす部位である.
- 椎間関節滑膜は決して腰下肢痛を引き起こすことはない.
- 関節包は疼痛を惹起することがあるが,腰痛や神経痛に関しては,神経根,線維輪外層など,疼痛を惹起させやすい組織を刺激するために起こるものと考えられる.
筋,筋膜,骨は痛みを感じにくい.これらの結果は,マッサージ・超音波・電気刺激・運動療法・磁気刺激・マニプレーション・筋リラクセーション・抗炎症療法・精神療法・手術療法の効果に関する疑問を呈する.
今後は腰痛の真の原因が何かを突き詰めることに時間を割くべきであり,疼痛をあまり生じない組織に対する,マニプレーションや寒冷・温熱といった治療に時間を割くべきではない.
*この論文が腰痛全てを説明しているわけではないと思いますが,腰痛の原因を考え直すに足る研究だと思います.
筋に対する直接刺激は痛みを感じにくいですが,前述したととおり血流が不十分な状態で筋が収縮すると痛みを感じます.
見極めも重要になりますので,基礎的な生理学や病態をしっかり熟知したうえで治療を考えたいものです.
金沢市 スポーツ・身体のケア
Sept. Conditioning Lab. 㐂楽
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