バッティング概説
動画は,MLBで通算650本の本塁打を記録しているAlbert Pujols 選手のバッティングフォームです.
股関節の回旋で骨盤の回転を生じ,バットへ力を伝達している様子.
骨盤が先に回転し出してから,少し遅れて胸のあたり上部体幹が動き出します.
さらにインパクトの直前で,上部体幹の回転が一時的に止まるところがポイント
下肢から生み出された身体の回転するパワーが腕を通して,
バットへと【変換】されているという事です.
プロ野球でも「インパクトの瞬間,一瞬骨盤を逆回転させるイメージ」と話す選手もいるようです.
身体の回転が一時的に止まる事の重要性が分かります.
バッティングの原則
バッティングだけでなくピッチングも同様ですが,足が地面に着いている事が大事です.
足で踏ん張っている事が,ボールにパワーを伝えるための原則です.
下半身から作るバッティングに必要なパワーについては↓を!
上のグラフはバッティング時のバットスピートを比べたものです.
インパクト時のバットスピードは同じですがスイングの開始が違います.
バットスピードの立ち上がりが早ければ早いほど,ピッチャーのボールを見極めてスイングが出来るためパフォーマンスに大きく影響します.
このバットスピードの立ち上がりは,【パワー】に左右されるためとにかく【パワー】を向上させるトレーニングが必要です.
【筋力】と【パワー】は同じではないのでトレーニング内容は吟味することが重要です.
バッティングのインパクト
インパクトの瞬間のアラインメントから観察してみましょう.
ベルトのバックルがピッチャー側を向いており,骨盤がしっかりと回転している様子がわかります.
そして両肘.双方の肘は曲がった状態でインパクトしています.
インサイドかアウトサイドかにもよってピッチャー側の肘は伸びる事もありますが,後方の肘はしっかり曲がっています.
この肘の状態も大事です.
以前は上の写真のように肘を伸ばしてインパクトするようにコーチングしていたこともあったようですが,実際のスイングではそのようになっていません.
両肘を伸ばしてインパクトするには,手首を返す必要がありますが,バッティングではインパクトまで手首を返さないでパワーを作ります.
筒香選手がホームランを打った時のスイング画像です.
インパクトより後のフォローでも手首は返っていない事が分かります.
この点はゴルフスイングとの大きな違いです.
ゴルフスイングとバッティングの違いについては ☞ゴルフと野球の違いは●●● スイングの同じトコロと違うトコロ
で解説しています.違いが分かる事でバッティングのヒントになるはずです.
インパクトの瞬間を見直してみましょう.やはり手首は返っていません.
そして注目したいのはインパクトの位置です.
バットとボールのインパクトは身体より前方,ピッチャー側になっています.
学童や中学生くらいには,身体の真ん前でインパクトするイメージがある選手が多いようです.
身体の真ん前のでインパクトしようとすると腕が窮屈になり,手首を返すスイングになってしまいます.
これだと充分にパワーが発揮されず,打球も弱々しい当たりになってしまうのです.
このインパクトの位置については一つの疑問が生まれます.
身体より前方,ピッチャー側でインパクトしてしまうと,左右の打ち分けはどうするのか?
特に流し打ちが難しいと思いがちかもしれませんが,流し打ちのほとんどはバットが斜めに入ってボールの斜め下を叩く場合が多いので,インパクトのタイミングは関係なく流し打ちが可能です.
流し打ちの時のボールのインパクトの場所です.
ボールの斜め下を叩いている事が分かります.
このバッティングも右中間に飛んだインパクト
— 鈴木セブン@痛みとスポーツが得意な理学療法士×農家 (@y_seven_s) January 28, 2020
バットはレフト方向に向いとるけど、流し打ちが出来とるって事#野球 https://t.co/KLETavGUAZ pic.twitter.com/hjgRIzHsh8
上のツイートはこの実験時のスイング画像で,実際に流し打ちが出来た時の物ですが,バットの面はややレフト側を向いていてもライト側にボールが打てているという事です.
実験の結果と理論上は15度までレフト方向にバットの面が先行していても流し打ちは可能だそうです.
バッティングの流れ
スイング始動からインパクトの中間です.
このタイミングでは,腰の回転から遅れて腕やバットが出てきている事が分かります.
全体の流れをAndres Torres選手のスイングに沿って解説しましょう.
Andres Torres選手のスイング
前方へのスイングが開始されているのでテイクバックは観察できませんが,本来であればキャッチャー側の股関節を内旋して力を溜める状態が観られるます.
動画の開始からは,左の股関節から始動します.
スイングの高さ調節のためか,少し膝を畳む動きがあるので膝から折れているように見えますが,膝の前方への動きは股関節とほぼ同時です.
左足で地面を蹴りながらピッチャー側へ股関節を押し出し,骨盤を右に回転させる.
図のように後ろ側の脚に壁があると仮定して,その壁を膝で押すようにすると股関節を使った骨盤の回転が作られます.
『膝を真横に押す』より『股関節を開く』ようにイメージすると,骨盤の前方移動だけでなく回転も使った力が加わり,スイングにパワーが生まれます.
ピッチングなどでも紹介する画像ですが,後ろ側の脚を動かすイメージはこのような動きです.
そうすると骨盤は前方と水平回転の要素を持った運動が可能になります.
ここからは右脚の使い方も大事です.というよりは最終的にこの【前側の脚】の使い方がパフォーマンスを決定します.
軸脚で地面を蹴り骨盤の前方及び水平回転の運動エネルギーを,ステップした側の股関節を押し戻すようにして骨盤が回転する力を増強させます.
インパクトの瞬間に右膝が伸びているのが分かりますね.このステップした脚の突っ張りが回転する力を増幅しています.
パワーヒッターとコンタクトヒッターで違いはありますが,パワーを生み出すには必要な動作です.
これはピッチングでも同様の力を生み出す方略です.
骨盤の回転する力が体幹⇒腕⇒バットという流れで伝達されます.
Albert 選手も同様ですが,身体よりもピッチャー側でインパクトしています.
先ほども書いたようにバッティングのイメージとして身体の真横でインパクトをしているイメージの人も多いと思いますが,イメージが違えば理想のスイングは出来ません.
正しいフォームを理解してスイングを見直しましょう.
育成期のバッティングの注意点
次に学童から中学生くらいまでのバッティングで気を付ける事です.
手首や腕全体の力が弱い時期に注意したい点です.
動画ではよく分かりやすいですが,
スイングは,面が安定せずボールをミートしにくくなります.
バットを高く挙げるようにとコーチングしてもなかなか修正が難しいので,後ろ側の肘を挙げておくイメージが大事です.
また,パワーの面で考えると,骨盤が回転する前に後ろ側の膝が前に出てきており身体の回転の力が使えていません.
動画のように左打ちのバッターでは,左ひざの故障にもつながるため修正が必要です.
左の股関節と同時に左膝が動き出すようなイメージを持つと,左脚で地面を蹴る力がバットにも反映されるためパワーのあるスイングが可能です.
子供でもメジャーリーグの選手と同様のバッティングフォームは可能です.
子供は身体も感性も完成されていないのでスイングを見直す事で,ミート率や飛距離が格段に向上します.
また,バッティングで飛距離を出すには【ローリング】という概念も必要です.
ローリングについては ☞バッティングで‘飛ばす’にはこれ!を参照してください.
バッティング時の腕の動かし方も説明しています.
バッティングの完成形とは?
2020シーズンの野球シーンで一番の印象が強いシーンを紹介します.
今年の野球シーンで一番の衝撃
— 鈴木7@リハビリ+鍼灸+トレーナーの人+農家 (@y_seven_s) December 29, 2020
タイミングのズレと軌道の修正があって若干泳いだスイングになっていてもバットがしっかり走らせてスイングスピードが保たれている
骨盤と胸椎の捻転差を利用したタイミングの修正
コンスタントに出来ればバッティングの完成形に繋がりそう
pic.twitter.com/5tANye25ri
骨盤の回旋を止める事でタイミングの差を埋めてもスイングスピードを落とす事なくスイングが完了出来る.
タイミングがズレ,若干泳いだ状態でも120mの距離を弾く事が出来るこのスイングはバッティングにおける一つの完成形ではないかと考えています.
スポーツ障害予防,パフォーマンス向上にはバイオメカニクス
石川県 金沢市 スポーツ・身体のケア
Sept conditioning Lab. 㐂楽
コメントをお書きください
堂田陽介 (火曜日, 18 8月 2020 07:15)
とてもわかりやすく参考にさせて頂いております。
私自身もバッティング指導用の動画をYouTubeでアップしているのですが
この記事に掲載さている
Andres Torres選手の上からの映像をYouTubeに上げて活用させて頂くことは可能でしょうか?
Sept. Conditioning Lab.鈴木 (火曜日, 18 8月 2020 20:32)
堂田 さん
コメントありがとうございます.
該当の動画ですが,Chris氏の許可を得て転載している物になりますので,控えて頂いた方がよろしいかと存じます.
何卒ご理解のほどよろしくお願い対します.