ダイエットや市民ランナーのタイムは良くなるかも??
脂肪燃焼を促進させるには・・・
糖質を制限したうえでのトレーニングや競技パフォーマンスについて.
この論文と他の論文を読んだ私見としては・・・
Ⅰ.スポーツに対するトレーニング
- アスリートの競技結果の向上にはつながりにくく,筋肉量の減少や練習の質が低下することもあり導入は慎重に行うべき
- 普段トレーニング頻度や強度が小さい市民ランナーは,タイムの向上が期待できる
Ⅱ.ダイエットに対するエクササイズ
- エクササイズ前後に糖質制限(空腹状態を継続)すると脂肪燃焼効率は向上し,繰り返すことで脂肪燃焼効率の良い体質に変化する可能性がある
- 筋肉量が減少するため,基礎代謝が低下してリバウンドしやすい身体になる
- 筋肉量が少ない人にとってはお勧めできない
- 筋肉量が充分な人には導入する価値あり
結論としては,脂肪燃焼効率はあがるものの競技レベルによってその効果は違うようです.
まとめは下の方にありますので飛ばして読んでも大丈夫です.
アスリートに限定すると,空腹時のトレーニングは筋肉量が減少したり,充分にトレーニングが行えなかったりなど否定的な意見もあります.
普段運動しない人や充分に筋量をつけた状態でのダイエットには応用の可能性はあります.
運動経験が少ない人にとっては試してみる価値があるかも知れません.
糖質は生体内においてグリコーゲンとして貯蔵されており, 脳や筋など各組織が活動する際のエネルギー源になっています.
運動時において,骨格筋に貯蔵されたグリコー ゲンは筋肉が働くエネルギー源 として重要な役割があります.
このため筋グリコーゲン貯蔵量が少なくなるというのは単純なエネルギー源の欠如だけでなく,筋肉が働くのための働きに障害を引き起こします.
日常的に高強度のトレーニングをこなすアスリート にとって,消費された筋グリコーゲンを十分に回復させ ることは日々のトレーニングを継続するために重要であり,国際的なガイドラインではトレーニング強度に応じて,1日に体重1㎏あたり3-12 gの糖質を運動後に摂取することを推奨しています.
また,マラソン など長時間に及ぶ運動では体内の糖質が継続的に消費 されるため,競技中にこれらの枯渇を防ぐための栄養コントロールが重要です.
一方,試合前やトレーニング期における一時的な糖質制限がパフォーマンス向上に貢献する可能性があることが最近分かってきました.
運動前後に糖質制限を行うことで,脂肪の燃焼が効率的に行われることが多数報告されており,スポーツ栄養に関する指針にもトレーニング時における糖質制限の有効性に関する記載もあります.
しかし,パフォーマンス向上 を目的とした糖質制限の効果には不透明な部分が多く, 実践には細心の注意が必要だと考えられます.
トレーニ ング時における糖質制限の手法,効果,メカニズムに着目しつつ,その応用性について説明します.
運動前の糖質制限
運動前の糖質制限の例として,早朝空腹時の運動や, 運動前における低糖質食摂取があります.
運動前の低糖質食に関しては双方の見解がありますが,早朝空腹時の運動は通常時に比べ運動中の血中遊離脂肪酸濃度の増加,骨格筋内トリグリセリ ドの減少,脂質利用率の増加を引き起こすことが報告されています.
そして,この早朝空腹時の運 動による脂質利用率の増加は,運動後24時間たっても継続されます.
90分以上にわたる競技では,血糖値や筋グリコー ゲン貯蔵量を維持するための栄養コントロールが,高いパフォーマ ンスを発揮するために重要です.
このため,運動前の糖質制限に伴う脂質利用率の増加( 糖質消費の節約)は,筋グリコーゲン貯蔵量を維持しパフォーマンスが改善する可能性があります.
しか し,現段階で一般者および競技者を対象とした他の多くの先行研究で運動前の糖質制限がパフォーマンスに及ぼす有効性は確認されていません.
一部の研究によると,筋グリコーゲン貯蔵量により, 運動前の糖質制限がパフォーマンスに及ぼす効果が異な る可能性が考えられるということです.
また,運動前および運動中の糖質制限は,一時的な 脂質利用率の向上だけでなく,脂質代謝関連遺伝子群 の発現を亢進 するよう作用します.
つまり,継続的に実施するこ とで脂質代謝能の向上が期待できるということになります.
長期的な効果をみる と,運動前の糖質制限を伴う 6 週間のトレーニングに より,運動時における脂質燃焼率および骨格筋内のトリグリセリドがより多く使用されました.
細胞レベルでも運動前に糖質制限を行った場合,より活性が高まることが示されており,これらが脂質代謝能向上の背景にあると考えられます.
運動後の糖質制限
運動後に糖質を摂取するとで,骨格筋内への糖取り込みと筋グ リコーゲンの再合成が促進されます.つまり筋肉を発達させるには糖質の摂取が効果的です.
対照的に,運動後の糖質制限は筋グリコーゲン回復の遅延を引き起こし,血中遊離脂肪酸濃度が高いまま維持されます.
このことから,運動後の糖質制限についても脂肪燃焼効率を高める可能性があります.
研究では,一般者にお いて筋グリコーゲン貯蔵量を著しく減少させる運動を実 施し,その後24-48時間にわたり低糖質食を摂取した場合,高糖質食を摂取した場合に比べ,脂質代謝関連遺伝子群の発現 量が高いことが認められています.
これに対し,運動後の 糖質制限が比較的短時間の場合(< 4 時間),代謝関連遺伝子群の発現に亢進はありませんでした.
この点か ら,一定時間以上の糖質制限が脂質代謝関連遺伝子群の発現を亢進するために必要であると考えられます.
低グリコーゲン状態での運動効果
運動前後の糖質制限により,筋グリコーゲン貯蔵量が 少ない状態でトレーニングを実施する“train-low”と呼 ばれる方法があります.
これは主に2 つのセッションで行います.
- 高強度,あるいは長時間運動により筋グリコーゲン貯蔵量を減少させる
ト レーニング間の糖質制限を経て
- 2 つめのセッションで主となるトレーニングを実施
筋グリコーゲン貯蔵量が低下した状態の運動では,血中遊離脂肪酸濃度の高値 と脂質利用率の増加が誘導され,通常の状態と比べ,脂質代謝などの遺伝子群 の発現が亢進されることが報告されています.
長期的な効果に関しては,一般者を対象に 3 -12週間の中強度持久性,または高強度インターバルトレーニングを筋グリコーゲン貯蔵量が低下した状態で実施した場合,通常の状態に比べて運動時における脂質利用率が増加す ることが確認されました.
また,このような代謝適応は恒常的にトレーニングを行う持久性競技者においても認め られています.
パフォーマンスの変化をみると,筋グリコー ゲン貯蔵量が低下した状態でトレーニングを行うことで,通常の状態でトレーニングを行った場合に比べ,疲労困憊に至る時間の改善率が高いことが報告されていますが,約40 kmのサイクリングタイムや Yo-Yo intermittent testではトレーニング前後の改善率に違いは認められていません.
近年では「スリープ-ロウ」と言われる,午後から高強度トレーニングを行い筋グリコーゲン貯蔵量を低下させ,糖質制限をしたまま睡眠をとり,翌日の朝食前に中強度持久性トレーニングを 実施する新しい方法が提案されました(sleep-low).
この方法は,筋グリコーゲン貯蔵量が低下した状態が長時間続く点が特徴的です.
これまでに一般者と持久性ア スリートの両者で,細胞レベルおよび全身レベル(脂質利用率, 体脂肪率, 10 kmランニングタイム, 20 kmサイクリングタイム, 超最大強度での疲労困憊に至る時間)で通常状態のトレー ニングと比較して有意な改善が報告されています.
メカニズム
運動前後の糖質制限により脂質代謝能の亢進が生じる メカニズムの 1 つに,糖質制限により誘導される血中 遊離脂肪酸濃度の高値が挙げられる
糖質制限の応用性と課題
マラソンレースにおけるエネルギー必要量を数理モデ ルを用いて算出した研究では,低-中レベルのランナーではグリコーゲン枯渇がパフォーマンスの制限要因となるリスクがあり,糖質制限を伴うトレーニングにより脂質利用率を増加させることで パフォー マンスの改善に繋がる可能性があると考えられます.
一方,高 い有酸素性作業能を有するアスリートにおいて,マラ ソンレース時でもグリコーゲン枯渇がパフォーマンス の制限要因となるリスクは少ないため,筋グリ コーゲン貯蔵量を節約する必要性は低いと思われます.
また,国際レベルの競歩選手を対象と した 3 週間のトレーニング時の食事条件を変えて比較すると,糖質制限食で脂質利用率の増加はあったが,10 kmランニングタイムは改善が認められませんでした.
このように,普段の食事条件を糖質制限食(糖 質~3.6 g/kg BM/日)にすることで脂質利用率の増加を誘導できることが多く示されてはいますが,その結果パ フォーマンスに改善を認めた報告はほとんどなく,今後の検討が必要としています.
まとめ
- 糖質制限が代謝適応とパフォーマンスに及 ぼす影響
- 運動時に糖質制限を行った場合,急性効果として一時的な脂質利用率の増加があり,慢性効果として脂質代謝能の向上が誘導
- 筋グリ コーゲン貯蔵量が低下した状態での運動で遺伝子発現が誘導されている可能性がある.
- 現在のところ競技レベルの高いアスリートを 対象とした研究や糖質制限がパフォーマンスに及ぼす長期的な効果についての報告は少なく,糖質制限がパ フォーマンス向上に有効か否かを断定できない.
- 糖質制限は一部の持久性競技者で経験的に取り入れられている
- 現状を鑑みれば,より高い競技レベルを有する対象者で, かつパフォーマンス変化をメインアウトカムに設定した 研究の実施が望まれる.
*このコラムは,塩瀬 圭佑:競技パフォーマンスに及ぼす糖質制限の影響.体力科学 第 66巻 第 2 号 125-131(2017) を参考にしています.
石川県金沢市 スポーツ・身体のケア
Sept. Conditioning Lab. 㐂楽
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