とある雑誌の巻頭に,歯科医のリベラルアーツについての言及がありました.
【多面的に物事をみる重要性】
これは治療現場でもすごく必要なことです.
全ての事柄が一致しているわけではないですが,普段から思っていることが書いてありましたので紹介したいと思います.
タイトルは【口腔外科医のリベラルアーツ」】
大分大学医学部歯科口腔外科学講座 河野 憲司 先生によるものです.
リベラルアーツについての詳細は省きますが,医療関係者に大事なことだと思います.
‘ リベラルアーツは「教養」と訳されるが,単に雑多な知識 をつけることではない.
歴史,文学,宗教, 哲学などの人文社会系科目を核として,理学,工学,芸術 をも含めた多様な分野を横断的に理解し,多面的な知識をもとに型にはまらない独創的な考え方ができるようになる ことを目的としている.
つまり「思考の訓練」である.
科学技術分野でのイノベーション創出を重視 し,国立大学の人文社会系については社会に必要とされる 人材を育てなければ,廃止か他分野への転換を求めた.しかし,それで社会に求めら れる優秀な人材が育成できるのであろうか.リ ベラルアーツの根幹概念を否定しているように思える.
医学は,広い意味で自然科学系のなかの応用科学に分類 される.
同時に人文社会的な要素をも含んでいる.たとえ ば,健康と病気の差を考える時,病院では検査データをもとにして病気か否かを判断する.これは診断学であって, 病気の本態を考えているのではない.
医学は理と文 の両方の要素から成り立つ分野なのだと思う.
歯科教育について少し考えてみよう.歯学部では,歯科 医師免許の取得がほぼすべての学生の目標である.6 年間 の教育のなかには,一応,2 年間程度の教養課程が組み込 まれている.人間性豊かな医療人を育てるためである.
しかし歯学 部教育と卒後教育は適切に行えるのであろうか.若い歯科 医師にとって,歯科インプラントなどの先進的技術の習得が一番の関心事であろう.しかし,社会から距離をおく ことを容認されている大学のなかで技術習得ばかりに熱心 になっていると,社会人としての常識が欠けた歯科医師に なってしまう.
社会人としての幅広い知識と教養をもち,豊かな 人間性を育てる教育を行うことは,指導にあたる上級医師 の大切な義務である.言うのは簡単であるが,6 年間の歯学部教育でそのようなことが十分に教えられていない状況 で,卒後教育のなかでその埋め合わせをするのは容易では ない.
自分とは異なる患者の価値 観や視点を理解できるか.主治医としての自分を話すに足 る人物と,患者に思わせることができるか.若い口腔外科 医は,専門分野以外にも興味の対象を広げ,リベラルアー ツの精神を学ぶことが必要だ.それがこれからの将来,外 国でも通用する広い視野をもった口腔外科医をつくり,日 本の口腔外科界の更なる発展につながっていくのだと思う’
日本口腔外科学会雑誌Vol. 62 No. 12 p591
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