あのときもっとこうしてたら・・・ああしてたら・・・って思う事ありますよね.
先日,数年前から非常勤で講師をしている専門学校で講義をしてきました.
タイトルは‘脳血管障害に対する理学療法’.脳梗塞や脳出血の後遺症で,手や脚に麻痺が起きます.この麻痺をいかに取り除くか,家でよりよく暮らすためにはどうしたらよいか,仕事などの社会復帰はどうしたらよいか,そのための下地として,神経生理学(脳科学なんて言い方もあります)を元に話をしました.半球間抑制や遠隔性機能解離などです,言葉だけ聞いてもよく分かりませんね.
他にも変形性膝関節症での痛みはどうして起きるのか,膝の痛みを取るためにはどういう方法があるか,についても「単純に変形があるから痛い」というのではなく,解剖学や運動学にのっとって痛みを理解するという話です.
最初の1,2年間は専門的な知識の話ばかりでしたが,徐々に自身の経験を交えて「今のうちにやっておいた方がいいよ」という観点でも話をするようになりました.
実際,いざ現場で働き出すようになっても分からないことだらけですごく苦労した覚えがあります.そのときにこうしとこえば良かったなーってことを少しでも学生に伝えることが出来たら,と思ったわけです.
今になって思うと,基礎医学の知識ってすごく大事なんです.骨や筋などヒトの身体の構造や脳や内臓の機能などです.でも多くの人は基礎医学をあまり深くまで掘り下げていません.分からないものだからついつい,~~法とか,~~セオリーとかいう独自の枠組みを作ってしまったり,その方法しかやらなくなっていきます.
どこかの学校の先生の話がTwitterで紹介されていました,「わずかな知識だけで物事を理解しようとするせいでありえない仕組みを仮定して‘分からない’を埋める.分からない物の多さが分からないから何でも知っている気になってしまう」(一部省略).この話になるほど!と思いました.新しい事が分かるとさらに‘分からないこと’が出てきます.さらにそれを調べるとまた次のこと・・・というように続くわけです.どこかで止まってしまうと‘わからないこと’を変な理屈で説明してしまうんです.
私も色々なことがわからないまま現場に出ました.自分の力不足を痛感しました.あまり良くならない患者さんを目の当たりにし,どこかで「手術したんだから痛いのは仕方ない」とか「損傷している部分が大きいからこの辺りまでしか回復しない」そういう言い訳もしていたかもしれません.そして治療の手技だけを考えてしまいました.
でも「そうじゃない」と気づきました.基礎こそ大事なんだと.身体の構造はどうなっている,脳や神経の働きはどう,関節の細かい機能はどう,というふうに.そこからは必至でした.暇さえあれば論文を調べて人の身体はなぜ痛むのか,どうすれば回復するのか,痛みがなくなるのか,気づけばパソコンに保存されているだけで1500以上の論文,紙で保存してあるのはいくつあるかわかりません.ようやく人の身体の悩みに向き合えるようになったと思います.
そういう意味で,私は少し遠回りしたことになります.今の学生にはそうならないように,少しでも良い知識・技術を手に入れてほしいと思います.そして私たちの世代より,さらに高度な医療を提供できるようになってほしいと.私自身もそれに負けないよう精進しなくてはなりません.
膝の痛みは変形があるからだけではない,麻痺が生じるのは機能局在だけの問題ではない.
深くものごとを捉えられる,そして気持ちを大事にしてくれる理学療法士に育ってほしいと思います!
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