理想の投球フォームは球速もアップし,野球肩・肘の予防を実現する
【理想の投球フォームをバイオメカニクスから考察する】
このテーマを目指して投球フォームを科学します.スポーツ医学にも沿うよう心掛けて執筆しております.
ある番組で山本由伸選手が話していました.『投球フォームに正解はない.』
その通りだと思います.そのためにプロでも様々な投球フォームがある訳です.
ただし,【投球フォームに不正解はある】と考えています.
悪いフォームで肩や肘を壊したり,球速が上がらない事はあるのです.
充分の知識や指導が無いことが原因で,上達出来ない人や故障で選手生命を閉ざした人は沢山いると思っています.
私もその一人です.私の場合は自身の努力が足りなかった事もあります.
そんな後悔が起こらないように『スポーツ科学の知識で選手としての成長をサポートしたい』
この想いでスポーツのコラムを作っています.
未来の野球選手のためにこの記事のマンガ化を目指しております
ご助力頂ける方のお問い合わせやDMをお待ちしております.
投球障害に対するリハビリテーションは↓
球速と投球フォーム〜ボールを投げるという事〜
現在,日本で史上最速は2016年のクライマックスシリーズで大谷翔平選手の投げた165㎞/hです.
アメリカメジャーリーグでは,チャップマン選手が106m/h(約171㎞/h)を記録しているというものですが,非公式となっています.
物体が速く動くということは物理的に捉えれば【力学的エネルギー】が大きい事であり,ボールの重さは一定なため,速いボールを投げるには力の大きさとその力を与える時間が関係します.
ピッチングではプレートに立った状態から限られたフォームの中で効率よくボールにエネルギーを与える必要があります.
投球フォームにおいてボールが得られる力は,
- ワインドアップからの右脚の蹴りだし
- 股関節の回旋
- 全身にかかる重力
- 体幹の捻転,肩の回旋
- 肘の伸展
- 肘から先(前腕;ぜんわん)の回内
- 手首の尺屈,掌屈
- 手指の屈曲
があります.
これら一つ一つをアクセラレーションのフェイズで,効率よくボールに伝達出来れば球速は大きくなります.
では,それぞれの力を確認しましょう.
下半身でのパワーの作り方は↓もご覧ください.
球速をアップさせる投球フォーム
軸足股関節の回旋を使った投球フォーム
投球のフェイズで最初にボールに力を与える運動は,軸脚での身体全体を投球方向に押し出す力です.
股関節の働きが非常に重要であり,股関節を外に開きながら後ろに蹴る力が必要になります.
具体的には下の画像の動きです.
股関節の【外旋・外転・伸展】の運動が複合的に働いています.
この時,右足部はプレートで固定されているため,相対的に骨盤や体幹が捻りながら前方へ押し出される運動になります.
特に重要なのは【股関節の外旋】です.
よく投球において『タメ』という言葉を耳にしますが,股関節外旋に至る前の股関節内旋もこの『タメ』の部類に入るのではないかと思われます.
外旋に至る前の内旋での『タメ』については,【トルネード投法】で有名な野茂英雄さんのフォームがわかりやすいです.
外旋の筋発揮を行う前に反対方向の内旋を強調することでストレッチショートニングサイクルによる筋出力増大が狙えます.
外旋などを含めて股関節を【3次元】で使う事はほぼ全てのスポーツにおいて必要で,意識して股関節を使う事から始め無意識にその動きが出来る事が必須です.
軸となる右の膝を後ろ側に残す意識をすると骨盤の水平方向の回転をイメージしやすくなります.
この軸脚股関節の回旋はスポーツするためにとても重要
— 鈴木7@リハビリ+鍼灸+トレーナーの人+農家 (@y_seven_s) February 5, 2021
pic.twitter.com/CyuCvfdcRY
下のイラストのように,膝を内側に入れて身体を倒すようにしているフォームでは,右股関節の力を充分に発揮できていません.
重力による加速度だけに依存する事になり,骨盤を捻り押し出す力がないためボールに働きかける力が小さくなります.
さらに膝に対して外反と回旋のストレスが発生して故障の原因にもなるため修正が必要です.
身体に対する重力を球速アップに利用した投球フォーム
右足を支点にしているところから重心が投球方向に移動すれば,身体が投球方向に倒れる力が発生します.
これは重力による作用を利用できます.
これも投球方向へボールを押し出す力となります.
以前の投球フォームはこの力を重視し,腰を低く投球することが指導されていました.
「より遠くに左脚を出し,右膝が地面にするくらい腰を落とせ」と.
近年,膝に土が付いているピッチャーは見かけなくなりました.
重心の前方移動の力をボールの球速へ変換するためには,【左脚の突っ張り(リードレッグブロック;詳細は以下)】が必要だからです.
この力の変換が球速アップに欠かせません.
腰の位置が低くなるということは左膝が大きく曲がっており,前方へ押し出された力を骨盤の回旋方向へ変換しきれません.
同様の話を【前田健太】投手がYouTube内で話しています.
前田健太投手も高校の時に修正した事.
小学生や中学生で知っていたらまた違うパフォーマンスが見られたかも知れません.
甲子園で1970年代始めを代表する江川卓と,2010年代後半を代表する元大船渡高校の佐々木選手の投球フォームです.
江川に比べ佐々木選手の方が,軸足膝と腰の位置が高いのが分かります.さらに左膝の屈曲角度にも違いがあります.
『とにかく腰を落とせ』と言う時代がありましたが,バイオメカニクスの観点から考えると球速の向上は見込めません.
球速アップする投球フォーム~ステップ脚の使い方と身体の捻り~
上述のようにステップ脚で【つっぱる】事が骨盤の回転を含む身体全体の捻りの速度を増大させます.
重心が前方移動している力を骨盤の左回転へと変換し,さらに胸椎での左回転を行うことで力を上乗せします.
軸脚股関節で生み出された力と重力により重心が前方移動している状態で,左脚を突っ張って左股関節の位置を固定する(上図①)と骨盤は左へ回転(同②,③)しようとします.
この左脚の使い方が右脚での蹴り出した力を身体の捻る力へと変換するわけです.これが【リードレッグブロック】です.
MLBで公式記録最速をマークしている,チャップマン選手やヒックス選手,さらに甲子園を賑わせた元星稜高校出身のの奥川選手 などはホップしてリード側の脚を着地するほど重心の前方移動の力を大きくしています.
前方移動の力を支えきれないことや腰を落とそうと左脚が大きく曲がってしまうと,身体が流れたようになり力の変換にロスが生じてしまうので,左脚での身体のコントロールはとても重要です.
このステップ脚で踏ん張る事の重要性がわかる動画を添付します.
ステップ脚が着地する寸前
— 鈴木セブン@痛みとスポーツが得意な理学療法士×農家 (@y_seven_s) February 12, 2020
軸脚の反力は三塁側へ向いとる
投球方向へ蹴っとるイメージが強いけど
水平面での回転を作るために軸脚を使っとる
という解釈が出来る#ピッチング#メカニクスpic.twitter.com/8uVDlhpVHI
矢印はどのように踏ん張っているかを表す【床反力】です.
ステップした脚では反力が大きく記録されています.
踏み出した力をステップした脚でしっかり受け止め水平方向への回転スピードに変換しているという事です.
また,軸足の反力にも注目する事があり,軸足の反力を表す矢印が投球方向から徐々に3塁側へ移動しています.
これは軸足を外へ開くようにして身体を押し出しているという事になり,始めの軸足でのパワーの生み方の確認となります.
もう一つステップした脚の踏ん張りが重要かを示す知見として挙げられるのは,垂直跳びのパフォーマンスが良い選手はピッチングにしてもヒッティングにしてもボール速度が大きいという結果です.
ステップ脚でより強く踏ん張れる能力がある方がパフォーマンスは良い事になります.
ステップ脚で踏ん張る時の注意点としては,膝が左右にぶれない事,膝が爪先と同じ向きにホールド出来るかどうかです.
軸脚で生まれた骨盤の水平方向の回転を意識するとステップ脚もその力の影響を受けて,右投げなら1塁側へ流れやすくなります.
ステップ脚の膝が外に向く分だけ回転の力をロスしている事になるので球速が上がりません.
上の写真は膝が外に開いてしまう状態をイメージしていますが,膝が流れず真っ直ぐホールドしておくようにするだけで球速は向上します.
さらにその力を体幹に伝え充分に左に回旋する事で,右肘がしっかりと前に出てリリースポイントもバッターに近い位置になります.
球速アップする投球フォームと上がる肩の捻り(内旋)の関係
身体の捻りが始まると右腕は相対的に,後ろ方向に動くことになり後ろへ倒れます.
ここから肩を元に戻すように捻る力と肘を伸ばす力が加わります.
ここで肩を捻る力が優先されたりタイミングが早かったりすると,肩や肘の負担が大きくなります.
上の写真はピッチャーのリリースですが,肘はほとんど伸びています.
ピッチングについて下の図のように肘が曲がった状態で,腕を前に倒すようなイメージを持っている人もいると思います.
この動きは肘や肩に負担をかける投球フォームであり,肩・肘を痛める原因でもあります.
ボールスピードに及ぼす影響は,一般的に肩の捻りより肘を伸ばす力の方が大きいと言われ,肩の捻りがスピードに大きく関係する投球フォームは,肩や肘など身体への過剰な負担を与えることになります.
球速に関係する投球フォーム中の肘の伸び(伸展)
身体の回転で発生した力をさらに増大させるように,肘を伸ばす力を加えます.
体幹の捻りが充分ではないと,肘の伸ばす力は投球方向へ働きません.
投げるという動作で腕の意識が強すぎると,身体を捻る力が充分発揮されません.
身体の捻り,肩の捻り,肘の伸ばしそれぞれを意識する必要があります.
下の図は世界最速を誇るチャップマン投手のリリースポイントを示しています.
投球側の肩が充分前に出ており,身体をしっかり捻っている事が分かります.
さらに大谷選手を例に挙げると,エクステンションと呼ばれるリリースポイントはプレートから6.8フィート(約204cm).
大谷選手のストライド長についてのデータはありませんが,エリートピッチャーのストライドは身長の約85%と言われています.
大谷選手のストライドを概ね170cmと仮定すると,ストライド位置から34cm前方でリリースされていることになります.
仮定があるので確実ではありませんが,プレートから200cm以上先のポイントでリリースするためには体幹が大きく回旋出来ていないと不可能です.
下のInstagramは前田選手のリリースポイントを上空撮影したものでも体幹の回旋とリリースポイントがリードレッグの前にあることがわかります.
球速アップする肘から先(前腕;ぜんわん)の捻りと手首の曲げ
投球フォームの中ではかなりマイクロな部分で,この動きを知っているかどうかは,投球スピードや肩・肘を守る上でとても大事な動きです.
肘から先の動きは分けて考えるのが難しく,前腕の返しと手首の曲げはほぼ一体です.
掌が内側を向いた状態から外側を向くように前腕を捻ります.
この動作がないと効率的に手首を使えなくなります.
投球やラケットを用いる競技でよく言われる【スナップ】です.
投球では動きが小さく動作を確認しにくいですが,バドミントンなどの競技を観察するとラケットのフェイスの向きで,この前腕の動きがよく分かります.
打った面がフォロースルーで一度身体の外側を向きます.右利きなら右側です.
これは掌が内から外を向く動作で,これと同時に手首が曲がることで一番効果的に力を発揮することが出来ます.
手首は腕を固定した状態で【ただ曲げる】だけでは速く動きません.
前腕の捻りと手首の曲げを同時にさせると速い手首の運動が実現できます.
‘手首を使え’と言われ手首を曲げる事だけを意識すると動きがギクシャクし効率的に運動が実現されないため,肘から手首までの動きもしっかり見直す必要があります.
指のリリース後の動きも,しっかり腕が振れているか確認できます.
ストレートの場合ですが,リリース後,親指が中に入り人差し指や中指に握りこまれるようになっていると腕の振り方,手首の使い方が正しいと確認出来ます.
カーブのときのリリースのように親指が掌の外にある場合は,腕の振り方や手首の使い方が間違っており,野球肘のリスクが高くなります.
投球時の掌の向きと指の弾き方がとても分かりやすい動画がありますので観てみましょう.
リリースから掌が右を向き,親指が握りこまれる様子が分かります.
色々ためになるけど、1番注目したいのは
— 鈴木セブン@痛みとスポーツが得意な理学療法士×農家 (@y_seven_s) January 17, 2020
リリースからの掌の向き
と
親指が人指し指と中指に握り込まれる事
育成期でこれを知っとる選手は少ないから
早い時期に知ってほしい!#野球#ピッチング https://t.co/x78ESGsTxu
投球フォームのバイオメカニクスまとめ
以上が一連の投球で必要な事項です.
特に意識されにくい部分は,
- 右脚の蹴り出しから身体の捻り
- 肘の伸び
- 前腕の返し
だと思います.
投球動作は,
- ‘手投げはだめ’
- ‘身体を使え’
- ‘身体の開き’
- ‘肘の下がり’
- ‘スナップを使え’
など指導されますが,具体的でないため選手自身もどうしてよいかがわかりません.
筋力や身体の柔軟性も必要ですが,身体の部位によっての使い方を理解する事が球速アップの近道です!
障害予防のためにも,まずは‘投げ方’を身に付けてみましょう.
投球のようなオーバーヘッド動作の全体像を観察するには ,テニスやバドミントンなどのラケット競技を観察すると分かりやすいです.
テニスのサーブと投球のメカニクスは近い
— 鈴木7@痛みとスポーツのリハビリの人+農業 (@y_seven_s) December 8, 2020
🔘インパクト後にラケットの面 が右側を向く
🔘肩肘のラインがほぼ直線
🔘フォローが右側に抜ける
育成期にこの感覚が掴められればパフォーマンスは向上するし肩や肘の故障の予防になる
違うスポーツの動作から見直す事も必要
pic.twitter.com/wAEvdl99V8 pic.twitter.com/3jFL75gvC0
グローブ側の腕の使い方に関する考察
投球フォームについて,グローブ側の腕の使い方についても議論される事が多いです.
このコラムではグローブ側の使い方についてはそこまで影響しないと考えています.
極論にはなりますが,少し過去の選手のJim Abbotte選手を紹介します.
まずそのフォームです.
Jim Abbott was born without a right hand but that didn't stop him from pitching 10 years in the bigs including tossing a no-hitter OTD in 1993.
— MLB Vault (@MLBVault) September 4, 2020
A true inspiration. pic.twitter.com/WJxwVnFO3O
Jimは生まれつき右手が無く,右手首に左用のグローブを乗せるように置いて投球します.
左手による投球が完了したら左手をグローブに突っこんでフィールディングをしました.
投球フォームで言えば積極的にグローブ側の腕を使う事は出来ず,実際強く引くような動作は見られません.
そのフォームでもある程度の成績は残していますし,必ずしもグローブ側の腕の使い方が投球のパフォーマンスに大きく影響しているわけではないという理由づけになります.
身体に対する体の重量割合で考えても腕の引き方による体幹回旋トルクへの影響はわずかと考えて良いかもしれません.
野球肩,野球肘の予防から考える正しい投球フォーム
ここからは,【肩と肘を壊さない】投球フォームです.
野球肩と肘の予防に主眼を置いたフォームを解説します.
まず重要なのは各フェイズでのタイミングです.
最初にチェックするポイントは左足が着地した瞬間,肩関節が十分に外旋しボールが肩関節より上にあることが大事です.
この時に前腕が垂直に立っていないと,腕の捻りが急速に行われ,肩や肘へのストレスが大きくなります.
肩関節の外旋(図では腕が後ろに倒れる動き)から内旋(腕が前へ倒れる動き)への切り返しが短い時間で行われるため,内旋への大きな角加速度が発生します.
角速度が大きいという事は,大きな力が働いているという事で,肩や肘の直接的なストレスとなり,野球肩や野球肘の原因となります.
短い時間で力が集中する例として,上の図があります.バッティングにおけるバットスピードの立ち上がりを見たものです.
インパクトのタイミングで同じバットスピードでも,その立ち上がりの早さによってスイングの開始時期が違います.
立ち上がりが大きい方が,ボールをより見定めてからスイングが開始出来るためバッティングのパフォーマンスとしては良いことになります.
しかし,グラフの立ち上がりが大きい方が瞬間的な力はより大きくかかります.
これは投球についても全く同じことが言えますので,同じ初速でリリースする場合だけを考えると短い時間に力が集中すると肩や肘の負担も大きくなるわけです.
もう一つこのタイミングで重要なのは身体の向きです.
このタイミングで胸が3塁側を向いている事が大事です.
チャップマン選手の投球フォームです.
左投げのため反対ですが,胸がキャッチャーではなく1塁側に向いています.
このタイミングでキャッチャーの方を向いてしまうと‘身体が開いた’状態になり,肩や肘に牽引のストレスがかかりやすくなります.
次はそこに至るまでの肘の位置です.
コッキング終了までに肘が上がりすぎないことが大事です.
このフェイズで肘が上がりすぎると,胸郭出口症候群になるリスクがあります.
TOSと略されたりしますが,肩こりのような症状や腕の痺れ,筋力低下がその症状です.
腕全体の痺れやだるさがあったりする人は要注意です.
さらに肩峰下部にもストレスがかかりやすい肢位であり,肩の炎症を引き起こすこともあります.
さらに下の図で説明される投球側の肘の引き過ぎにも注意しましょう.
フォームを大きくしようとして,肘を肩から後ろに引いている選手を見かけますが,
肘を身体の面より後ろに引き過ぎると,肩前方の組織が少しずつ弛緩して Internal Impingement の原因となります.
肘を後ろに引くのではなく,体幹を回旋することでフォームを大きくしましょう.
続いて,Accelerationのフェイズです.
気を付けるポイントは,上記パフォーマンスの内容と同様なのですが,追加する部分は ‘肩甲骨の位置’ です.
身体と腕の位置が見た目上同じでも,肩甲骨の位置によって肩関節にかかる負担は大きく変わります.
姿勢が悪い事や,背中の筋機能の低下,胸の筋肉が縮む事などで肩甲骨が前外側に傾くと,相対的に肩関節が水平外転位になります.
図の赤い線と腕の骨の角度に注目してください.
肩甲骨が正常な位置だと,腕を身体の真横にあげても肩甲骨面と上腕骨の角度は30°程度です.
背中が猫背のように丸くなると,肩甲骨面と上腕骨の角度が大きくなります.
この状態では上記のImpingementを誘発し,Accelerationの強い力が,腱板や関節唇に発生し野球肩の原因ともなります.
このような状態の場合,
- 上部胸椎の柔軟性向上
- 上部背筋の筋機能促進
- 小胸筋の柔軟性確保
などを行うと良いでしょう.
肘の高さも影響します.
「肘を下げるな」とよく言われますが,肘を下げると解剖学的に肩の外旋可動域が低下しやすいため,肘のストレスになりがちなのです.
しかし,コッキングでも述べたように ‘肘下がり’ が悪いと言って肘を挙げればよいという訳ではありません.
基本的には左右の肩の延長線が正しい位置です.
オーバー・サイド・アンダースローでも必要な可動域は違います.
各投球フォームで違うのは身体の【軸】です.
それぞれ骨盤の角度も影響しますが,肘の位置はほぼ左右の肩を結んだ延長線上にあります.
体幹の軸をどのように傾けるかが,投げ方に違いを与えています.
サイドスローになると重力の影響を最も受けやすい方向になるので,肩の外旋可動域を確保しないと肘の負担も大きくなると考えられます.
全体として重要な事は肩は水平外転によるストレスが大きく,肘は外反によるストレスが大きい場合にそれぞれ痛みに繋がります.
これは明らかに投球フォームに起因します.
肩を外旋するタイミングを早くして充分に外旋出来れば,肩関節の下部組織の伸張ストレスへと変換出来ます.肩の前ではなく【脇の下】が伸びるイメージです.
さらに肘の外反ストレスも小さくなりほとんどが伸展に対する応力になるため内側靭帯の損傷や外側の骨に対する障害も減弱出来る可能性が大きいです.
おおよそここまでが,肩や肘の痛みの予防や改善に考えなくてはならないフォームです.
アクセラレーション後期やリリースの部分は球速アップと同様のフォームを意識してください.
フォーム修正の注意として,タオルを使ったシャドウピッチングを良く見ますが,バイオメカニクスから捉えると全く違う動作になってしまう可能性がある事と,ステップ脚の使い方でもパフォーマンスが低下する可能性があるためタオルを使ったシャドウは投球フォームの練習にはならないどころか悪影響を与える可能性があるのでおススメ出来ません.
— 鈴木セブン@痛みとスポーツが得意な理学療法士×農家 (@y_seven_s) April 26, 2020
投球フォームの具体例
- 大谷 翔平 選手
左足が着地する直前まで右膝が内側を向かず,
右股関節を外旋することで骨盤の左回転する力を生み出している.
左足着地まで,背番号はしっかり一塁側に向いており,身体の回旋するタイミングもよい.
しかし左足が着地したタイミングで,右前腕が上に挙がっていない.
骨盤・体幹の急速な回転から生み出される力により,
右腕の早急な外旋⇒内旋の角加速度が発生し,右肘と右肩に強いストレスが生じるフォームになっている.
・ジョーダン・ヒックス選手
2018レギュラーシーズンで最速をマークしている,
私が現状もっともパフォーマンス面で良いフォームと考えている選手の一人です.
最速をマークした球種は,【シンカー】
この時のヒックス選手のグリップは,2シームだったそうです.
股関節始動で骨盤の前方移動と回旋が生まれています.
何より注目すべきは,左足着地寸前から始まる爆発的な骨盤の回旋.
これが,105マイルという球速を生み出している原点です.
さらに左足着地時の写真です.
骨盤の向きと胸の向きにギャップが発生しており,
このギャップも骨盤の回旋により生み出された力が保持されています.
ジョーダン・ヒックス選手は2019年6月にトミー・ジョン手術を受けました.
至る原因について推察したいと思います.
ヒックス選手のフォームで注目する瞬間はステップ脚が地面に着いた瞬間です.
ボールを持った手が真っ直ぐ上を向いていません.
上述したように,このタイミングからリリースまでの短い時間で,肩の外旋→内旋を強制されるために,肘の内側や肩の前方部分に強いストレスが生じます.
これがヒックス選手が手術に至った理由の一つだと考えられます.
必要な関節可動域
ここからは投球に必要な関節可動域(ROM)を考えます.
一般的にも,投球側の肩関節‘内旋’可動域が小さくなると,肩や肘の痛みが生じやすいと言われます.
学童期から,投球やバレーボールなどオーバーヘッド動作を行う競技を継続していると,球側の肩関節可動域は,外旋側にシフトします.
(外旋可動域が大きくなり,内旋可動域が小さくなる)
つまり肩関節の内旋は小さくなるため,学童期からのケアが必要になります.
また,近年の報告では,肩関節の外旋可動域が小さくなると,肘の痛みが生じやすい事が分かっています.
肩関節の可動域の是正が野球肩や野球肘に重要であるのは間違いありません.
そして,治療者やトレーナーに重要なのは,それが‘なぜ’か?? です.
今の現場では, ‘なぜ’を考えず,「○○だから●●しなさい」に終始しています.
これが,思考力を養えず総合的な判断が出来なくなり,科学的に物事を観えなくしています.
考察すると,
肩関節‘外旋’制限があるという事は,投球時の骨盤・体幹回旋時,上腕の並進運動で生じる外旋トルクで受動的に充分にレイバックが出来ず,肘関節外反トルクが発生.
肘関節の内側に牽引ストレスや,外側での骨同士の衝突が起きます.
サイドスローは重力方向の一致により一番ストレスが増大するため,サイドスローの選手はより外旋可動域を保つケアが必要です.
‘内旋’制限については,肩後方から下部組織の伸張性低下を表し,骨頭の関節内運動が制限されます.
特に上腕骨頭の上方移動が強制されると,結節の通り道が狭くなり障害につながります.
股関節の可動域も腰痛(分離症)の予防や球速アップに関係があります.
股関節伸展可動域が小さいと腰椎の伸展が強制され,椎間関節部のストレスから分離症を引き起こしがちです.
さらにステップ側股関節の内旋可動域が小さいと骨盤を充分に横回転させられないため,脚部で生み出した力が上半身に伝わらず,球速を制限してしまいます.
執筆継続中・・・
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タカ (土曜日, 30 3月 2019 07:45)
右足の蹴り股関節の捻りについてなのですがセットポジションから
足上げるときに両足の股関節を
内旋させてから外旋させた方が
股関節の可動域と大きなストライドを取れると思うのですがどうでしょっか?
Sept Conditioning Lab. (日曜日, 31 3月 2019 16:50)
タカさん
コメントありがとうございます。
その通りです、右股関節を内旋→外旋の方が、ストレッチ-ショートニングを利用し筋発揮も大きくなりますから、より骨盤を軸回転させるパワーが生まれます。
左股関節に関しては、回旋によるパワーを生み出す機会はないので、そこまで意識する必要はないかと思われます。
タカ (火曜日, 02 4月 2019 18:11)
セットポジションから
軸足の内旋から外旋をしていき
その後
どのタイミングで
トリプルエクステンションによる
素早い体重移動は行いますか?
Sept Conditioning Lab. (火曜日, 02 4月 2019 20:05)
各関節の‘伸展’する力は、左足が着く直前です。
上の大谷選手の画像で言うと、左爪先が左下腿の左側に現れるタイミングです。
この時、股関節は外旋と伸展が同時に発生しています。
Sept Conditioning Lab. (火曜日, 02 4月 2019 20:08)
‘右’股関節は、外旋と伸展が…
でした。失礼しました。
未経験親のお願い (火曜日, 09 4月 2019 12:36)
子どもが野球をしたいと言ったので、子供のころキャッチボールしかしたことのない私は、ネットで調べ始めました。けがをさせたくない、との思いから、ただ速い球を投げるためのサイトではなく、人間の体を意識した負担のない投げ方ということでこちらのサイトにたどり着きました。
よいサイトを見つけたと喜んでいますが、「むずかしすぎる」というのが野球未経験の親の正直な感想です。
もし可能であれば、一連の流れを(要所での分割ではなく)、正面(打者側)から、後ろから、真横(3塁、1塁側)から、真上から、をフィギュアのスロー動画で作っていただけませんでしょうか?
現在真横(3塁側から見た)のフィニッシュの直前までの動画がありますが、ぜひフィニッシュも入れて作って頂ければたすかります。
Sept. Conditioning Lab. (火曜日, 09 4月 2019 14:08)
未経験者親のお願い さん
貴重なご意見ありがとうございます。
拙い文章で申し訳ありません。
視覚的に表現出来るのが一番なのですが、3次元動画を作成するのはコストが掛かりまして実現出来ていないのが現状です。
良いものにしたい想いはありますので、もうしばらくお待ち頂きますようお願いします。
未経験者親 (火曜日, 09 4月 2019 19:33)
ご検討ありがとうございます。
野球経験者であれば、説明文に「おおそうなのか」とガテンすると思います。
何分未経験者で「こういうことなのかな」と想像に頼る場面がいくつかありましたもので、実際の動きで確認できたら、と思って意見を述べさせてもらいました。
そうですか、コストが発生するのですね。それでは無理は言えません。
フィギュアを動かすソフトを先生がお持ちで、しかも横から見た投球フォームがすでにファイルとして保存されている、と勝手に思い込んでしまいました。
ただ単に、動きを見る方向をソフトに指示すれば、あとはソフトがやってくれるので、それを張り付ければOK、と単純に考えてしまったのです。
ご多忙と思いますし、時間もコストも貴重です。
こういうサイトにたどりつけただけでも収穫でした。
ご返信、ありがとうございました。
手羽先 (火曜日, 23 4月 2019 19:16)
お世話になります。
偶然に、検索で 鈴木様の詳細で興味深いブログを拝見致しました。
投球動作について、物理的な調査を行っています。
お世話になっているクリニックの院長先生にも、意見と問い合わせをした所です。
ボールに与えられる力の説明で「全身にかかる重力」とは、体重の事ですか?
その他幾つかお伺いしたいのですが、メールをお送りしても宜しいでしょうか?
Sept Conditioning Lab.鈴木 (火曜日, 23 4月 2019 22:40)
手羽先 さん
コメントありがとうございます。
厳密に言えば、質量と重力加速度ですが、体重と考えて頂いても大丈夫です。
沢山の意見をお聞きしたいので、連絡お待ちしております。
ヒロ (水曜日, 08 5月 2019 18:33)
投げる時
プレートを蹴りなさいと
よく聞くのですが
実際は
プレートは軸足で
押すのが正しいですか?
それとどうしたら
軸足の押し込み(蹴り込み)を
強く出来ますか?
出来れば練習方法も
知りたいです
すみませんがよろしくお願いします
Sept Conditioning Lab. (木曜日, 09 5月 2019 10:46)
ヒロさん
コメントありがとうございます。
プレートを‘蹴る’事も間違いではありません。
個人個人でイメージの仕方も違うので言葉だけでは難しい事もあります。
ただ、股関節を‘捻る’意識と膝を伸ばすタイミングについての考え方は必要です。
股関節の回旋や外転、伸展のトレーニングが良いと思われますが、
フォームを確認してからではないと、具体的にアドバイスする事は難しいです。
ヒロ (水曜日, 05 6月 2019 18:51)
わかりました
ありがとうございます
それと少し聞きたい事ありまして
セットポジションから足を上げて
外旋しながら右足を押し込むと
膝が2塁方向に向くのですが
これは問題ありませんか?
Sept. Conditioning Lab. (土曜日, 08 6月 2019 18:20)
ヒロ さん
大谷選手とヒックス選手の投球を確認して頂きたいのですが,
股関節の回旋は,骨盤の回転として現れます.
このため,右膝は左足着地直前まで3塁側を向いているのが正しい状態です.
セットポジションから左足を挙げる
↓
右股関節の内旋=骨盤が右回転
↓
股関節の外旋+外転=骨盤が左回転+ホームベース方向へ移動
↓
左足着地直前に股関節の外旋+外転+伸展
運動学のCKCに類する運動ですので,接地していない骨盤や上半身が’動く’状態になります.
トシ (金曜日, 23 8月 2019 23:27)
初めまして
腕の振りについて聞きたいのですが
投げる時上半身は脱力して
下半身の体重移動と股関節の回転で
腕は勝手に振れてオーバースローで投げれるのですが
もっと速いボールを投げるには
腕に力(速く振る)を入れた方が
良いのですか?
それとも腕の意識は
しなくても大丈夫ですか?
すみませんがよろしくお願いします
Sept. Conditioning Lab. (土曜日, 24 8月 2019 10:12)
トシさん
コメントありがとうございます.
球速の大部分は,下肢から股関節,体幹での‘力’で決定されますが,
腕の力でも球速を上げる事が出来ますので,球速を求める場合は腕の力も意識します.
詳しく書きますと,
投球速度における各関節の貢献度を調べた研究では,
上部体幹の捻る速度と肘関節を伸ばす速度が投球スピードとの関わりが大きいと示したものもあります.
但しこの研究では,肘が伸びる運動は身体を捻る動きから生まれた物で肘を伸ばす‘力’を入れた物ではないと推察されていますので,【上部体幹を捻る意識】がまず必要と考えます.
あと,腕の力では,肩関節を内側に捻る力と肘と手首の動きですが,
肩を捻る動きを強調すると故障のリスクも上昇するため,
積極的には勧められず,必要であれば球数を制限しなくではならないでしょう.
球速関与で言うと,この章の’肘から先の返し’を意識してもらうと良いでしょう.
あとは,指で弾く動作,‘弾く’イメージは難しいですが,
親指と,人指し指・中指でつぶして弾く形になります.
文章化だけでは伝わりにくいところもあるかと思いますので,
時間を造ってまたアップデート致します.
不明な部分はまたご質問ください.
トシ (土曜日, 24 8月 2019 19:06)
上部の体幹を捻るとは
胸骨(胸)の事ですか?
それと良く腰を回せと聞くのですが
腹直筋と外腹直筋で
捻る用にした方が良いのですか?
今はまったく捻るイメージでは
ないのですが?
Sept Conditioning Lab. (日曜日, 25 8月 2019 21:52)
トシ さん
そうですね、胸の向きで判断も出来ますが、
正確には‘胸椎での回旋’になります。
腰の捻りも必要です。
腰の捻りは脚から生まれます。
・軸脚の外転、外旋
・ステップ脚の踏ん張りによって、骨盤の並進運動を回転する力に変える
→この腰の回転が脊椎を通して、胸椎の回転へと伝達されます。
内外腹斜筋の働きはこの回転を助ける形になります。
山本 (土曜日, 05 10月 2019 19:07)
初めまして
質問なのですが
大谷翔平選手や
ヒックス選手のフォームを見てると
左足がつく直前に軸足の股関節が
内旋されてる用に見えるのですが
(特に大谷選手が)これは
外旋と伸展によって内旋されてるように見えるのですか?
それとも実際内旋してるのですか?
よろしくお願いします
Sept Conditioning Lab. (日曜日, 06 10月 2019 08:56)
山本 さん
コメントありがとうございます。
左足が着地するわずか手前から、実際内旋しています。
股関節伸展のパワーを前方方向へ是正する働きもありますが、股関節の可動域の影響で、一連の動きによる受動的な動きでもあります。
なので、内旋によるパワーはあまり影響しない物だと考えています。
ひろき (木曜日, 05 3月 2020 07:53)
お世話になります
少し前にコーチに
体重移動して
前足を着いた瞬間に軸足を
(軸足の膝)鋭く速く回して投げなさいと教えて貰ったのですが
これは正しいのですか?
試しにやっては見ましたが
感覚的には腕が勝手に着いてきて
ボールのスピードも
下がってないです
すみませんがよろしくお願いします
Sept Conditioning Lab.鈴木 (木曜日, 05 3月 2020 10:59)
ひろき さん
コメントありがとうございます.
>前足を着いた瞬間に軸足を(軸足の膝)鋭く速く回して投げなさい.
ですが,
バイオメカニクスから考えると前のステップ脚が着くタイミングでは,軸脚を回す事が球速に寄与出来る事はほとんどありません.
地面から離れた時点で軸脚からパワーを生む事は出来ないからです.MLBで球速の大きい投手の中にも軸足が地面から離れてステップする選手がいます.ステップ脚が着地する時点で軸脚の仕事は完了しているという事です.
ここからは各個人のイメージも含みますが,
『軸足の膝を回す』意識が,
・軸足側の骨盤を前方に回転させている
・ステップ脚と軸足の膝が近づき『ステップ脚の安定』と『ステップ側股関節内旋』に伴う骨盤の水平方向への回転が促進されている
事が考えられますので,上記の指導は選手個人のイメージと合えば問題ないかと思われます.
ただし,軸足の膝を内側に回すイメージが強過ぎると,膝の関節で【大腿骨】に対して【脛骨】の外旋可動域が大きく(膝関節が緩く)なり膝の故障につながる可能性があります.
プロのスカウトが来た選手で,軸足側の膝の故障で選手生命を断念した方もいますので注意は必要と考えます.
トシ (木曜日, 07 5月 2020 15:40)
初めまして、質問なのですが、プロ野球のオリックス山岡投手や千賀投手は伝わりにくかもしれませんが、投球動作で くの字 に足をしていると思いますが、あれは良い動作なのですか?
千賀投手は昨年最速161キロを計測しましたが、今まで公式で160キロを計測した日本人投手はほぼみんな身長190cm以上で、この中からしては千賀投手は187cmと小さいかもしれませんが、それでもかなり高身長です。アニメメジャーの主人公茂野吾郎は身長180cmで最速102マイル=約164km/hを記録していますがそのようなことは物理的に可能なのでしょうか?長々とすみません。
Sept. Conditioning Lab.鈴木 (木曜日, 07 5月 2020 16:57)
トシ さん
コメントありがとうございます.
山岡投手と千賀投手のお話について,ステップする脚の動作の事で間違いないでしょうか?
ステップする脚が『くの字』になるのは,股関節を大きく内旋している状態です.
この動きが球速に関与する力は少ないと考えますが,ロスをする訳では無いのでその動作が『悪い』訳ではないです.
但し,股関節は内旋と屈曲が強制されると痛みが生じる可能性もあるので,ステップする脚の股関節に何らかの症状がある場合は注意すべきです.
次に球速のお話ですが,伸長が高い方が球速について有利な事は間違いありません.
コラムにあるジョーダン・ヒックス選手は188cmで169㎞/hを記録しています.
腕の長さの影響もあるので,そのような身体的特徴も加味して考えると180cmの人が164㎞/hを出すのは不可能ではないと思われます.
トシ (木曜日, 07 5月 2020 20:48)
♯24 分かりました!ありがとうございます。夢が持てますね。もう二つ質問したいのですが、一つ目に<ワインドアップ>というものは意味があるのですか?二つ目にこれは路線が変わってくるかもしれませんが、フォーク、スプリットなどは手や体に負担がかかりやすいとよく聞きますが、他に体の負担になる球種はあるのですか?
Sept Conditioning Lab.鈴木 (木曜日, 07 5月 2020 22:38)
トシ さん
着眼点が素晴らしいですね。
〈ワインドアップ〉する方が良い点は【コッキング期のバランス向上】があります。
動作中に視界の流れがある方がバランスを取りやすいので投球の準備段階としてはメリットがあると考えます。
セットアップでもバランスと軸脚股関節の内旋が行えるのであればワインドアップ決して必要ではないかもしれません。
〈フォーク、スプリット〉についてですが、調べた範囲では、肩や肘の故障が増える事は無さそうです。(これを検証する事自体がかなり難しそうですが)
最近の研究では、ストレートとカーブでは肘から手首にかけての筋肉の使い方はほとんど変わらない事が示されていますのでしっかりした投げ方をしていれば変化球が問題にはならないと思います。
付け加えるとメジャーリーグの投手では、球速に関係なくストレートを多投する方が肘の故障リスクになるという報告もありました。
初球から行きます (金曜日, 08 5月 2020 19:54)
自分は左投げなのですが、よく<クロスファイヤー>がきいているなどと言いますが、クロスファイヤーは、ストライクゾーンへ斜めに投げ込み打ちにくくなることだと思うのですが、角度が斜めの分直線距離が長くなり逆にスピードが遅く感じたりとデメリットはありますか?もう一つ、自分は制球が得意でないのですが、外角や内角はどこを特に調整すれば良いのですが。長々とわかりにくい文章ですみません。
Sept Conditioning Lab.鈴木 (日曜日, 10 5月 2020 14:14)
初球から行きます さん
コメントありがとうございます.
【クロスファイア】についてですが,プレートの外側にセットして内角をえぐるよう投球したとすると,リリースポイントからホームベースをかすめるまでの距離の差は3センチ程です.大きく見積もっても5㎝以内だと考えられますので特にデメリットとまでは言えないと思います.
シュート回転系のボールを扱えるのであれば内角を大きくえぐるフロントドアとなりますので有効だと考えます.
【制球】については個人差があるため大変難しいです.
コッキングで軸脚が安定しない事やステップ脚の距離が一定でない事などから,もちろん体幹や腕,手指の使い方でも変わります.
個人のフォームや意識から問題点を修正する事になります.
トシ (木曜日, 28 5月 2020 15:24)
先日コメントを書いたものです。この記事を読み、コロナの自粛期間で中々練習ができる機会がなくいつもガレージでこの記事を見ながらテニスボールを投げてフォーム確認を行っていました。久しぶりに普通の野球ボールでキャッチボールを行うと以前よりも逆にノビのない遅い球でコントロールも定まりませんでした。この記事を見てフォーム修正を行ったり、他の記事等も見て野球において重要な筋肉を筋トレしたり、しっかり運動は行ってきました。何故うまくいかなかったのでしょうか?フォームの意識しすぎや急なフォーム変更、コントロール等の意識しすぎで筋肉を使い切れていない、ボールで出る位置が違う、実際のボールを使っていなく感覚がずれているなどと理由はあると思いますか?自分のせいだとはわかっていますが何が悪かったのかわからなくモヤモヤしています。長々とすみません。
Sept Conditioning Lab.鈴木 (金曜日, 29 5月 2020 17:46)
トシ さん
ここで追究するのは難しいですが,
①【運動学習の過程】による一時的なパフォーマンスの低下
②【イメージと実際の運動の誤差(文章的なフォームの捉え方と動きの差)】
が原因かと思われます.
①の場合,運動を無意識に行える段階まで反復して学習する事でパフォーマンスが向上しますが,その段階に昇華するまでは,各部位を協調的に運動しないためパフォーマンスは低下します.
②の場合は自身のイメージと実際の運動に『ズレ』があるという事になります.
「自身ではフォームが修正されている」と感覚的に捉えていても,詳細を見直すと「タイミングや各関節の角度がメカニクスとしてベストな状態ではない」と言う事です.
イメージを修正できない限り,パフォーマンスの向上は難しいどころかケガの元にもなります.
①は反復する事で改善されます.
②の問題であれば実際のフォームを確認出来ない限りはコメントが難しいです.
短時間で結果を求める場合はオンラインでのフォームチェックをご利用ください.
おっ (金曜日, 03 7月 2020 17:49)
二段モーションは球速やコントロールの向上につながるのですか?また体型や柔軟性の違いで理想のフォームが違うことはありますか?例えば体格が痩せ形と肥満型では脚の理想の位置が違うなど。
もう一つ、他の記事で見たのですけど、体重が重い方が有利なのですよね?
Sept Conditioning Lab. 鈴木 (月曜日, 06 7月 2020 16:34)
おっ さん
コメントありがとうございます。
2段モーションについては私見ですが、球速やコントロールに直接影響する訳ではないと考えます。
個々での投げやすさなどフィーリングや打者との駆け引きの要素が大きいかと思います。
体型や柔軟性についてですが、基本的には理想と考えられるフォームは同じです。
ただし、柔軟性が低下していると肩や肘、腰や膝に障害が発生する事があるため適切な柔軟性は必要です。
最後に体重についてですが、原則は体重のある方が球速は大きく出来るでしょう。
しかし、その重量分を速く動かす筋パワーも必要になります。さらに各関節にかかるストレスも大きくなるので投球障害に繋がるリスクも大きくなります。ですので必ずしも有利かと言うと難しい問題でもあります。
股関節や体幹部の筋が充実している事に加えて上肢の質量をあまり大きくしないことが重要と考えています。
阿久津 (水曜日, 22 7月 2020 18:05)
先日二十歳で西武の平良海馬投手は160km/hを出しましたが、彼は大谷翔平選手などのような超長身なわけではないながらノビのある球をなげています。彼の投球フォームは理想的な投球フォームですか?
Sept. Conditioning Lab.鈴木 (月曜日, 03 8月 2020 17:23)
阿久津 さん
コメントありがとうございます.
平良海馬投手ですが,決して高身長とは言えませんが,球速は素晴らしいですね.
平良投手のポイントとしては,100kgに近い体重を素早く運動させる事が出来るパワーにあると考えます.
股関節周り,お尻の筋肉がとても発達しています.
フォームから考察しても,ステップする脚が着地する直前まで軸脚の膝が3塁側を向き,股関節の働きで骨盤を前方に押し出し,水平方向へ回転させている様子が観て取れます.
ステップ脚の膝が前方に出て曲がったり,左右へのブレもほとんどありません.
軸脚股関節をしっかり使ってパワーを生み出し,さらにステップ脚の股関節でその力をロスする事なく骨盤→上半身→上肢に伝えられているという事です.
理想と言うと難しいですが,コッキングが完了するタイミングがやや遅く,肘や肩前方にストレスがかかるフォームになっています.
向こう5〜10年にどちらかの故障が発生する可能性はあると思われます.
マードック (火曜日, 11 8月 2020 22:25)
自分は現高1で、何度かこの記事に質問を書いています。話の路線がズレているかもしれませんが、自分は現在179cm83kgでこの記事などで正しいフォームを追求して日々野球をしているのですが、それほど球速やコントロール等もありません。もしも本当に理想のフォームで柔軟等がありましたら、自分は140km以上を投げれるようになりますか?もう一つ、年と取るにつれ球速が上がるのは単純に筋肉量が比例するためなのですか?それとも骨格の問題やフォームの良さによる違いですか?それとも他に理由はありますか?
Sept. Conditioning Lab.鈴木 (水曜日, 12 8月 2020 13:12)
マードック さん
コメントありがとうございます.
まず一般論ですが,このコラムでの内容はフォームの基礎になります.
球速を上げるためには,股関節の回旋や体幹の回旋で運動エネルギーを生み出すための筋パワーが必要で,これにはトレーニングが不可欠です.
もう一つは,ボディイメージの要素です.自身が『こういうフォームで投げている』とイメージしていても実際のフォームとのズレがある事が多く,そのズレでパワーの伝達にロスがあるパターンです.
このために,当方でリモートのトレーニングや実際のフォームチェックを行っている訳です.
マードックさんに関して言えば,体格面では非常に恵まれているようですね,
筋量や体脂肪率の測定も必要ですが,しっかりした筋パワー向上のトレーニングが出来れば140km/hも可能だと思います.
年齢による球速アップに関しては,筋実質の充実などフィジカルの向上や運動学習(ボディイメージ・神経筋制御の改善など)を通したフォームの成熟などが考えられます.
あ (水曜日, 04 11月 2020 20:48)
どうしてもサイドスローで投げてしまいます。回転もシュートしてしまいます。どうすれば治りますか。サイドスローによって球速や制球力は落ちますか?
Sept. Conditioning Lab.鈴木 (木曜日, 05 11月 2020 13:07)
あ さん
コメントありがとうございます.
サイドアームは肩外旋の可動域がしっかり確保されていないと肘や肩の故障に繋がる可能性は大きい考えます.
しかし,球速や制球力についてはサイドだからと言って低下する物ではないでしょう.
ランディ・ジョンソンは恵まれた体格もありますが,サイドアームで殿堂入りを達成しています.
リストの返す方向の問題でナチュラルなシュートは致し方ないですが,持ち球とすれば決してネガティブな問題ではないです.
オーバーハンドのように,腕のスイングプレーンを少しでも挙げるとすれば,骨盤から体幹でのコントロールが必要になります.
股関節の使い方や上部体幹の回旋・側屈の機能性が重要です.
トレーニング方法など詳細はDMでお答えしております.
ロキ (木曜日, 12 11月 2020 18:57)
話が逸れてしまっていると思いますが、どんな競技においても上手い人、または習得の速い人たちであろうプロの選手たちは、みんながみんな、このような正しいフォームを知っていたわけでもないと思うのです。自分はフォームを治そうとしていますが、体をうまく使えず、なかなか治りません。このような取得の速い人と遅い人では何が違うのでしょうか?
Sept. Conditioning Lab.鈴木 (月曜日, 16 11月 2020 12:41)
ロキさん コメントありがとうございます
その通りです.習得の差は必ずあります.その習得の差を無くす事が私自身取り組んでいる命題であると考えています.
今まではある種【センス】のような物が必要だったスポーツの発達に,科学の目線から『何人でもパフォーマンスを獲得出来る環境を作りたい』との想いもこのコラムの趣旨です.
ここからは私見が主ですが,過去にはこのようにバイオメカニクスからフォームを考えたり,トレーニング科学が発展していない環境でもパフォーマンスの良い選手はいました.このような選手は先天的な要素があると考えています.
2歳程の子供がとても良いバッティングやゴルフスイングをしているのを目にします.
年齢を鑑みても教わって出来るものではありませんから,何かを観て模倣しただけでパフォーマンスの良いフォームを獲得出来るという方略(ここでは【身体操作】とします)が先天的に備わっていると考えられます.さらに手首の使い方などより細部の効率的な運動が獲得されているのではと思われます.
今まで活躍していた選手はその要素を持っていた人が多いのではないかと言う事です.
ロキさんの言う通り,同じ努力量でも獲得できるパフォーマンスは違うのはこの理由と考えています.
後天的な要素では【経験】です.
思い描くフォームを獲得する為には,基本的には身体を操作する能力をいかに向上させるかが重要になります.フィードフォワードやフィードバックがより正確に機能すると,ボディイメージ・スキーマと実際の運動のズレが小さくなります.
長期的に見てこの身体操作を獲得する為には様々な(運動だけでは無い)経験が大事です.野球だけでは無い様々なスポーツを経験する事が,野球のパフォーマンスを向上させる可能性は大きいです.マルチスポーツはとても大事と考えており,育成機期の年代にも積極的に勧めています.
短期的に見る場合は自分のフォームを解析してどこに上手くいかない理由があるかを考える事が必要です.
自分が〇〇しているとイメージしていても実際は違ったり,〇〇するよう動いていると思っていても,力の入れどころが違う事もあるのです.
【走る】フォームを考えると,自身が一番速いと思っているフォームで走っているはずですが,ほとんどの人はベストなフォームではありません.一番良いと思う運動とパフォーマンスが一致しない例です.
このコラムで言うとパワーを作り出す右股関節の使い方については理解していても実際の運動に表出するのは難しい所です.
水平成分の回転する力を生み出すのに股関節から動き出すと言う運動が文章を読んでイメージは出来ても実際にその動きが出来ていない事が多いのです.
このような【動き】を獲得するためにトレーニングがあります.
動きを実現するためには段階的に,一つ一つマイクロな動きを獲得してから,全体的なフォームを改善させます.
説明が難しい部分があり蛇足にもなりますが
課題としては,
・イメージと自身の動きに誤差がある
・マイクロな動きが効率的に繋がっていない所かと考えられます.
動作をスローで各方向から撮影して見直すと何か見つけれる事があるかも知れません.
斎藤 (日曜日, 12 6月 2022 23:27)
初めまして
軸足で強くプレートの押し込みと
前足の突っ張りで身体は勝手に回転して
腕も勝手についてくるのですが
勝手にサイドスローになって
指にかかる感覚がなくなったのですが
どうしたらオーバースローで
指にかかる感覚になりますか?
今の対策は軸足を強く押す前に
グローブの位置を高く上げて
前足がついてから
グローブを下に強く引く感覚でしたら
オーバースローにはなるのですが
Sept. (水曜日, 15 6月 2022 19:46)
斉藤 さん
コメントありがとうございます.
水平面での回転を意識するとメカニクス上サイドスローになりやすいです.
スリークォーターやオーバースローにするためには,体の軸を一塁側に傾ける必要があります.
現在のフォームを拝見していないのと,それぞれ個人個人でイメージが違いますのでアドバイスも難しいのですが,
個人的には『リードレッグが地面につく前に体を反らせておく』イメージだと上から腕が振りやすいと感じます.
一度試してください.
たなか (日曜日, 19 6月 2022 18:43)
こんばんは
コーチにトリプルエクステンションの
練習して
もと早く体重移動を早くしなよと
教えて貰ったのですが
トリプルエクステンションは
投球する時に自分で意識してするものなんですか?
自分の考えはプレートに軸足かけて
軸足を外転しながら
力抜いて体重移動しながら
前足がつく寸前にプレートを強く早く
外転しながらプレートを押し込める感覚が
あれば股関節、膝、足首勝手に
伸ばされてトリプルエクステンションの形になり外転させてるので
プレートを押し込む足の膝は捕手方向に
向いて上半身の捻転差がでると
思ってますが
トリプルエクステンションの練習は
するべきなんでしょうか?
よろしくお願いします
Sept. (木曜日, 23 6月 2022 16:30)
たなか さん
コメントありがとうございます.
このコラムで引用しているツイートを確認しても分かる通り
軸足での床反力のベクトルは三塁側に向いています.
トリプルエクステンションが主成分だとすると床反力はホームベース側に向かうはずです.
この事から軸足でのパワーの生産はトリプルエクステンションが主ではないと思われます.
やはり軸足股関節での外旋,外転,伸展が主でしょう.
但し,膝の伸展や足関節の底屈が必要無いわけではありません.
パワーを生み出す成分にはなっています.
意識とはそれぞれ個人で違うため【意識すべきか】は議論の余地があります.
意識すれば球速が伸びるなら意識すべきですし,意識しても球速やコントロールに影響がないなら意識する必要はないでしょう.
先日山本投手が『フォームに正解はない』とTVで話していました.
これもその通りで個人個人で合う合わないもありますから色々試してみるのも良い事です.
しかし『フォームには不正解はある』と考えています.
悪いフォームであれば,身体に故障は生じますし,パフォーマンスも限界があります.
自分ではこれが良いと思っていても,実際は最大のパフォーマンスでないことはよくあります.
実際の球速やプルダウンとの球速差を測定して,パフォーマンスが良い方の意識が合っているということですので,色々試してから考えると良いかと思います.
よしの (金曜日, 30 12月 2022 09:29)
はじめまして。中学生野球の指導者です。
ピッチングフォームはそれぞれに合う合わないがある中、共通して外してはいけないポイントがあると考えて指導しています。
上半身の開きが早くなりすぎてはいけないと思いますが、具体的にどのタイミングまで胸が三塁側(右投手)を向いておくのが理想でしょうか?
ステップ足の着地まで向いておくべきか、着地する直前には回転を始めるべきですか?
Sept. (水曜日, 11 1月 2023 20:10)
よしの さん
コメントありがとうございます
『共通して外してはいけないポイントがある』 まさにその通りかと存じます
タイミングとしてはどこがベストかは現状申し上げられるだけのデータがありません
ただステップ脚が着地したタイミングで上半身が開いていると球速は小さくなるという相関はあるようです
タイミングとして解釈しやすいのは【ステップ脚が着地した時点】での判断になるかと思います
右サイドアーム (土曜日, 30 3月 2024 12:16)
何度も繰り返し拝読させていただいています。初めて質問させていただきます。
肘から先、主に手首の動きのメカニクス(トップからリリースまで)特にスナップ前後を教えてください。それと本文中に左足が着地時に右手は上を…とありますが頭に近い方(右耳付近)がコントロールが安定し旋回速度が上がるため球速も上がるような解説をYouTubeなどでみたのですが肘は直角に近い方が良いですか?
今後とも参考にさせていただきますので解答よろしくお願いいたします。
Sept. (火曜日, 02 4月 2024 14:41)
右サイドアーム さん
コメントありがとうございます.
肘から先については,中盤のXを引用した部分がわかりやすいかと
思います.
運動学的には,前腕の回内,手関節撓屈,掌屈が行われます.
この運動はダーツのスローも同様ですので,ダーツを参考にするのもわかりよいかと.
ステップ脚の着地時点での右手の上下は,肩関節のいちに対してという概念でしたので,肘の屈曲90°で上を向くという意味合いではありませんでした.
確かに肘屈曲角度が大きい方が上腕骨を軸とする回旋角速度も大きくなります.
また,肘内側への伸張ストレスは小さくなり障害リスクも低減させられるかと推察出来ます.
ただ極端だとリリースにかけて肘伸展の角度変化が大きくなるため,コントロールが難しくなるでしょう.
肘の屈曲角度は自身が違和感ない範囲で屈曲するのが最善かと考えます.